私たち審査員は、広義な意味でのドラマ、エッセイ日記風なもの、日常のリアリズム、アニメーション、ドキュメンタリー、などノミネーション作品のバラエティーの豊かさに大きな感銘を受けた一方で、複数作品間の比較が難しいケースも多々あり、審査は白熱。受賞作品の絞り込みは非常に困難となった。特に大賞を巡っては意見が分かれ、議論が重ねられた。また、選ばれた5作品は、結果的にこのノミネーション作品のバラエティーの幅を反映した。
優秀賞3点
作品は現代社会におけるアイデンティティーの不確かさを、視覚的変化を効果的に用いた美しい描写により、表現することに成功している。登
場人物の描写やロケ地の選定がドキュメンタリーからフィクションへのシフトにうまく機能している。
作品後半に使われる白黒のモンタージュ映像が新鮮であった。この技法が主人公の孤独感を表現するために的確に用いられ、力強い印象を残した。
有名TV番組の流用が効果的に使われたこの作品は、アニメーションのシーンや登場人物の動きの転換が俊逸であり、シリアスな作品が多い中、この作品のギャグのセンスと突き抜けた明るさに目を奪われた。
寺山修司賞
自身の母親に関する記憶、というパーソナルでささやかな主題にもかかわらず、線画のアニメーション、ノスタルジックなソフトフォーカスの実写映像、パステル・ドローイング、ストップモーション・アニメなど非常に多様な技法を用いる実験的試みは新鮮であり、作品全体として観客の感情を揺さぶる豊かな表現を確立しているように感じられた。
大賞
素朴なストップモーション・アニメの冒頭のシーンから始まり、肉体のグロテスクな変貌、不気味なジオラマや骸骨の登場など、多様な映画的視覚言語を効果的に用い、観客の期待を裏切る展開が強く印象に残った。個人の孤独感から宇宙的なものへと飛躍していく、作家の独創的な世紀末的世界観が圧倒的である。ストーリーはミステリアスな部分も残し、観客に解釈の余地を残す、もしくは解釈を拒むようなストイックさが俊逸であった。
なお、「手のなる方へ」は、アニメーションに物理演算による偶然性を取り入れるという実験的試みが評価されたが、惜しくも次点にとどまった。
イメージフォーラム・フェスティバル2017
「ジャパン・トゥモロウ」最終審査員
石山友美
カルロ・シャトリアン
近藤健一