イメージフォーラム・フェスティバル2020「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」では、日本、中国、台湾、香港、韓国から462作品の応募があり、一次審査、二次審査を経て25作品が最終審査にノミネートされました。これらのノミネート作品は本フェスティバルの上映プログラムとして各会場で上映されます。
東京会場の会期中に最終審査員3名による審査会議が行われ、協議の結果、以下の通り受賞作品が決定しました。
映画祭最終日10月4日(日)にはスパイラルホールにて授賞式が行われました。
>> 授賞式の様子:https://youtu.be/baue_Pb-rbs
『13』磯部真也/デジタル/11分/2020/日本
太陽の光を13秒間隔のインターバル撮影で5年間かけて撮影された作品だが、映画の冒頭でその画が一体なんであるのか、説明されることはなく、ちいさな丸い点が、画面の上を何度も移動していくだけである。ただそれだけなのに、映画の初めから終わりまで画面に映る光の存在に強く惹きつけられた。繰り返される光の軌跡、重なる音、後半の展開から、なぜかそれはよく見知った光ではないかと感じさせ、それが太陽だということがわかったとき、わたしには知覚しようもなかった太陽の公転が生む詩性、リズム、メッセージを、作家が5年という月日をかけてフィルムに焼きつけてくれたことを心底ありがたく感じた。(吉開菜央)
『妊娠した木とトッケビ』キム・ドンリョン+パク・キョンテ/デジタル/115分/2019/韓国
現実とファンタジーを越境する手法そのものが映画が描くテーマと絶妙に絡み合い、2時間弱の中で、主人公のパク・インスンへの愛へと発酵し、観客の想像力を拡充する。これまでメディアで描かれてきた慰安婦のイメージを打破する画期的なドキュメンタリーである。シリアスな題材を描きながら、会場に笑いをも誘うラディカルなこの作品は、寺山修司賞の冠に相応しい。(吉開菜央)
『ピンク・マオ』タン・ハン/デジタル/22分/2020/中国
このエッセイ・フィルムは中国の100元札の色という、興味深く意外性のある視点を通して権威や偏見、その他の歴史的近代的事象への疑問へと展開して行く。作者は学術的な論文や、公的資料に拘らず、言語、ポップカルチャー、ジェンダー・アイデンティティー、芸術史、消費主義、そしてデジタル・クライシスといった広範な領域を通じてリサーチを進めていく。それらは必要性がなくお互い無関係に見えるが、饒舌で整然としたこの作品を通して、若い世代が持っている未来の社会や新たなデジタル時代への考え方や問題意識について知ることができる。(ヴェロニカ・ウォン)
『I AM NOT HERE』KURiO/デジタル/9分/2019/日本
どこか懐かしさを感じさせながら、類稀なるセンスと確かな知識と技術を担保に、目眩く世界へ観客を迷いなく誘う作品で、表現することの楽しさも感じさせてくれた。コラージュ・アニメーションによる確信犯的な作家の風格をもちながら、これをまだ若い日本の作家が描ききったこと、そしてこの作品が彼の処女作であることに驚愕した。(真利子哲也)
『盗賊にも仁義あり』マー・ランホア/デジタル/50分/2019/中国
本作は、フランス喜劇、ジョルジュ・メリエスのサイレント映画、京劇、現代美術といった創造性を軽々と越境し、伝統と現代性を並置させた視覚体験で魅了する。背景として選ばれた打ち捨てられた建物の選び方も注意を惹くものであり、中国の急速な近代化を明示している。作者は古典的な物語を完全に新しい手法で語るという芸術的なリスクを果敢にとっており、審査員一同今後作者が長編劇映画にもたらすであろう実験性に期待が高めた。(ヴェロニカ・ウォン)
『13』磯部真也/デジタル/11分/2020/日本
『白露』チェン・シー+アン・フー/デジタル/5分/2019/中国
ヴェロニカ・ウォン(大館現代美術館キュレーター/香港)
真利子哲也(映画監督/日本)
吉開菜央(映像作家、振付師、ダンサー/日本)