東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション2025 受賞作品決定!
2025.10.05
イメージフォーラム・フェスティバル2025「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」では、日本、中国、香港、マカオ、台湾、韓国から過去最多となる530作品の応募があり、一次審査、二次審査を経て20作品が最終審査にノミネートされました。これらのノミネート作品は本フェスティバルの上映プログラムとして各会場で上映されます。
東京会場の会期中に最終審査員3名による審査会議が行われ、厳正なる審議の結果、以下の通り受賞作品が決定し、10月3日(金)にシアター・イメージフォーラムにて授賞式が行われました。

>> 授賞式の様子(最終審査員およびノミネート作家の皆さんほか)

>> 『敵意ある風景』ジャン・ハンウェン監督(写真中央)
■ 受賞作品+審査員コメント
【 大賞 】

敵意ある風景
ジャン・ハンウェン/デジタル/59分/2025年(中国本土/ドイツ)
かつて脱獄した脱北者という歴史に埋没していくかもしれないような視点を取り上げ、その逃走経路を風景として追跡していく。2画面による卓越した画面構成とその語りにより、ただのイメージにすぎないかもしれない風景を変容させ、土地、国家という大きな歴史に接続していく様はスリリングかつ、国家が個人をいかにコントロールしてきたか、また今なおどのようにコントロールしているかを暴いてみせる。土地、国家、個人を風景で描き切ったその確かな視線を高く評価した。(審査員一同)
【 寺山修司賞 】

初めの写真
ジェス・ラウ・ツィンワ/デジタル/11分/2024年(香港)
この作品は、映像構成の様々な形式的要素―音、光の点、デジタルアーカイブ、ペースなど―を組み合わせることで、過去から構築するのが最も困難な要素である感情の質感(テクスチャー)を詩的に伝える能力を持っている。その視覚的技法は、複雑な地政学的構図の狭間で歴史的出来事の非物質的側面を伝達するものであり、他の歴史を描いた作品ではあまり見たことのない手法だ。この個人的なアプローチは、監督の父親が1979年に中国と香港の200キロに及ぶ非合法国境を越えたという秘められた家族史に由来し、アーカイブや歴史の「客観性」に対する私たちの考え方に新たな視点をもたらす。(審査員一同)
【 SHIBUYA SKY賞 】

私の横たわる内臓
副島しのぶ/デジタル/11分/2024年(日本)
アニメーション応募作の多くが、作家個人の体験を内面から見つめ、意識や感情を視覚化していたのに対して、本作は内臓や胎内といった“身体の内部”を正面から扱い、それらを血と肉の物質性へと置き換えることで、私たちのフィジカルな実感を鮮やかに呼び戻す。ストップモーションに残る手の痕跡はフレームごとの微細な揺らぎとなり、「触る/触れられる」感覚を生み出した。同時に作品は、魂はどこに宿るのか、人間はどこから生まれるのか、肉体とその外側の物理世界とは何かという根源的な問いを往復する。内観の映像詩でありながら、儀礼的なプロセスによって触覚の記憶を呼び覚ます。その点を高く評価する。(審査員一同)
【 優秀賞 】

ジョーカーの目
ラウ・ゲンユー/デジタル/13分/2025年(マカオ)
この作品に登場する架空のキャラクターたちは、架空の都市についての物語を語るための巧みな手法である。他の悲劇的な背景のもとに制作された典型的な映画とは異なり、その機知に富んだ魅力的な映像が、この作品が陰鬱さへ引きずられることを阻止している。またこの映画は内面的な視点の提示にも成功しており、監督と都市との深い結びつきを示している。(審査員一同)
【 優秀賞 】

炭鉱奇譚
ソン・チェンイン、フー・チンヤ/デジタル/30分/2025年(台湾)
廃鉱した町の風景にそこでかつて働いていた人々の声がボイスオーバーで重なり、奇妙な話の数々が語られる。それは神や精霊、幽霊についての話で存在しないかもしれない何かについて語られている。そして映像には確かに何も映ってはいない。しかしおそらくその声の持ち主と思われる人々が画面上に姿を表し、取り壊しに反対する様が描かれると、かつてそこに存在したのか怪しかったものたちが、確かにあったこととして迫ってくる。それは神であり霊であり歴史でもある。(審査員一同)
【 優秀賞 】

分身考
ワン・モーウェン/デジタル/35分/2024年(中国本土)
学芸員として生きる主人公の現実に、「海神の巫女」という伝承的イメージが重ね合わされ、現実か虚構かすらもわからなくなる。作品は、パンデミック以後に強まった自己の二重化を、出来事の再現ではなく感覚の設計として提示している。鏡像(あるいは“偽像”)や一人二役という配置を用い、記録と虚構の境界を意図的に曖昧化し、観客に「彼女は一体何者なのか」という謎を最後まで突きつける。ドキュメンタリー素材と演出を峻別せず、事実の表層と寓意の深層を積層させることで、焦点は個人史の回復ではなく、自己像の編集へと移行する。オンライン上の人格、制度上の役割、他者から投影される肖像。複数の自己を運用する現代の私たちにこの作品は静かなリアリティで迫ってくる。(審査員一同)
【 東京会場観客賞 】

敵意ある風景
ジャン・ハンウェン/デジタル/59分/2025年(中国本土/ドイツ)
■ 最終審査員

五十嵐耕平(映画監督/日本)
ブンガ・シアギアン(キュレーター、研究者/インドネシア)
モンノカヅエ(映像作家、アニメーター/日本)
※写真左から